シュガーボム:砂糖爆弾

砂糖爆弾 (著者:エミリー・ビールズ 2015年8月)

レーニングやスポーツで高いパフォーマンスを発揮するために、スポーツドリンクは大切であると信じている多くのアスリートが見逃している事実があります。それはスポーツドリンクは砂糖が入っているということです。そして、それによりもたらされるパフォーマンスと健康への悪影響です。

 

多くのアスリートは、スポーツドリンクやその他のサプリメントを通じ
て摂取している砂糖のことを気にしていません。以前のトミー・マリノフさんにとって食事といったら、ピザやハンバーガー、それとコーラでした。さらに彼はジムでのワークアウトの合間に頻繁にゲータレードを飲んでいました。

 

彼は砂糖を大量に含んだ炭酸飲料が、健康のために良い選択肢ではないことは知っていました。ですがゲータレードは、パフォーマンスの向上と身体の回復のための賢明な選択であると信じていました。 「アスリートが運動前や運動中にゲータレードを飲んでいるコマーシャルは、そこら中で目にしていたし、僕はアスリートはゲーターレードを飲むべきだと思って育ったよ。」とカリフォルニア州ノヴァトのCrossFitノースマリンに通うマリノフさん(22歳)は言っていました。

 

1型糖尿病と診断されてから炭酸飲料水とゲーターレードを飲むのをやめたマリノフさん

 

確かに広告では、スポーツ飲料は運動をする上で、必要なエネルギー源であると宣伝されています。

 

2012年のゲータレードのコマーシャルでは、「世界最高峰のアスリートもゲーターレードを飲んでいた!」っと陸上世界記録保持者のウサインボルト氏がゲータレード社の製品を飲む映像とともに誇らしげに語られています。マリノフさんは、自分が口にする飲み物の成分表を読んだことはありませんでした。 2年前、カリフォルニア州チコにあるビュート大学に通っていた頃の彼にとっては、適切な栄養がゲーターレードに含まれているか否かは優先事項ではなかったのです。

 

「大学に良いってされる食べ物を買える場所はあったけど、そこに行くのに時間が掛かったし、楽ではなかったんだ。誰もそんな物食べていなかったし、僕だけチキンサラダとかを食べる特別なヤツになりたくなかったんだ。」とマリノフさんは言っています。 身長160cmで体重も50kgと太っている訳でもなかったので、砂糖を過剰に摂取することに何の心配もしていませんでした。「炭酸飲料やスポーツドリンクを手に入れるのは、いつでもとても簡単だったよ。ゲータレードは味も良いし、運動のパフォーマンスを向上させてくれると本気で信じていたよ。」と彼は言っています。マリノフさんが頻繁な喉の渇き、絶え間ない排尿、筋力
低下、原因不明の体重減などの異常な症状を経験し始めた2014年10月にすべてが変わりました。

 

彼は医者に診てもらうまでの一ヶ月間、これらの症状を放置しました。マリノフさんがインスリンの分泌機能に異常をきたす自己免疫疾患である1型糖尿病と診断された時、彼の体重はわずか45kgでした。1型糖尿病は通常、遺伝性疾患と見なされていますが、マリノフさんの医師は、単純な風邪がこのような自己免疫反応を引き起こしたと考えています。Mayoclinic.orgによると、研究者たちは何が成人の1型糖尿病の発症を引き起こすのかはっきりと判明できていないとなっています。マリノフさんの身体は、もはやインスリンをつくることはできません。これは身体がもはや血糖値を調節することができないことを意味しているのです。

 

彼が受診した時、彼の血糖値は血液1デシリットルあたり900ミリグラム(mg / dL)と測定されました。医師は、彼に正常な血糖値は80から120mg / dLの範囲であると言いました。

 

マリノフさんは、その瞬間に生きていて幸運だと感じたと語っています。 「900ミリグラム(mg / dL)っていうのは前代未聞の数値なんだって。運動を全くしないカウチポテト族であった、僕がそれほど高い血糖値で生きていること自体が奇跡だって。 普通は600ミリグラム(mg /dL)で、糖尿病性昏睡状態になる可能性があると言われたよ。」とマリノフさんは言っています。

 

マリノフさんは人生で初めて、自分が日常的に摂取している砂糖について学び始める時が来たことを知りました。彼が最初に学んだことの1つは、健康を管理したいのであれば、炭酸飲料やスポーツドリンクを飲むことを諦めなければならないということでした。

 

砂糖の真実

最も一般的なゲータレード(写真のボトル)であるGシリーズのボトルは600mlで、34 gの砂糖(136カロリー)が含まれています。700mlのIon4 Poweradeのボトルには、高果糖コーンシロップの形で40 gの砂糖(154カロリー)が含まれています。これは小さじ10杯の砂糖に相当します。低カロリーとされるG2ゲータレードでは、砂糖の量はかなり少なく、600mlのボトルで12gです。しかし、代わりに人工甘味料であるスクラロースが含まれています。

 

600mlのゲータレードの砂糖の量は、同じ量のコカコーラ(64g)とマウンテンデュー(77 g)と比較すると少ない言えます。しかし、オークランド工科大学で公衆衛生栄養学の博士号を取得し、栄養士をするカリン・ジンさんは、ゲータレードの砂糖含有量には、まだ問題があると言っています。

 

アメリカ心臓協会は、砂糖の摂取量を女性の場合は1日100カロリー(26g)以下、男性の場合は1日150カロリー(38 g)以下に制限することを推奨しています。これは、600mlのゲーターレード1本に相当します。トレーニング中に飲まれるゲータレードは、多くの場合この1日の推奨摂取量を超えてしまっているのです。ジンさんによると、多くのスポーツドリンクに含まれる高果糖コーンシロップなどの100カロリーの砂糖だとしても、1日の量としては多すぎると言っています。

 

「摂取量は、低ければ低いほど良いと考えています。」と砂糖について言っています。 「臨床報告書ー子供と青年のためのスポーツドリンクとエナジードリンク:それらは適切か?」という記事の中で、米国小児科学会は甘いスポーツドリンクやエナジードリンクの摂取により引き起こされる潜在的な健康上の危険について警告しています。


「カロリーのあるスポーツドリンクを頻繁にまたは過剰に摂取すると、子供や青年の太りすぎや肥満のリスクが大幅に高まる可能性がある。」と報告書は述べています。現代に暮らす私たちの食事に含まれる過剰な砂糖は病的だと言えます。 「これはとてつもなく大きな問題である。」国際的な週刊科学ジャーナルNatureに掲載された2012年の記事「砂糖についての有毒な真実」は、まさにジンさんの見解と同様のものとなりました。

 

この記事によると、世界の砂糖消費量は過去50年間で3倍になりました。 「私たちの祖先は、進化の段階で、砂糖は果実から、年に数ヶ月間 (収穫時) しか摂取することができませんでした。また、蜂蜜は蜂により守られていたため入手が困難でした。しかし、近年、砂糖は事実上すべての加工食品に添加されており、消費者の選択の余地が大きく制限されてしまいました。自然は人間が砂糖を手に入れることを砂糖を困難にしてきましたが、人間はそれを簡単にしてしまいました。」と記事を書いたロバートH.ラスティグ氏、ローラA.シュミット氏、クレアD.ブリンディス氏は述べています。

 

「スポーツドリンクは砂糖過剰摂取による健康危機を悪化させているだけです。飲み物が、この問題に大きな影響力を持っていることが理解されるべきなのです。」ジンさんは述べています。

 

電解質の神話


パリス・バンターナさんは、フロリダのCrossFitブラデントンのオーナーをしています。マリノフさんのように、バンナータさんもまた、成人になってから1型糖尿病であると診断され、食事を意識するようになりました。 CrossFitトレーナーを仕事とするバンターナさんは、マリノフさんのようなクライアントに頻繁に出会います。スポーツドリンクが電解質の補充、脱水症状の回避、パフォーマンスの向上に役立つと信じているクライアントに、度々会う機会があるのです。 「何年もの間、ゲータレードはスポーツドリンクだと言われてきました。しかし、食品表示を見る人はほとんどいませんでした。そして、多くの人はゲーターレードは運動後の回復を助け、パフォーマンスを向上させ、さらに私たちは運動中に電解質が必要であると信じ込まされてきました。」とバンナータさんは言っています。

 

CrossFitブラデントンでクライアントに炭酸飲料水とスポーツドリンクの摂取について考えさせるバンターナさん

 

何年もの間、ゲータレードは、「パフォーマンスを向上させ、回復を促す飲料水」という形で宣伝されてきました。スポーツドリンクメーカーはまた、水よりも効果的に水分を補給し、危険な電解質の損失を助けると主張してきました。このゲータレードマーケティング方法と広告には、問題があるとジンさんは言っています。「実際のところ、ほとんどのアスリートは、運動中に炭水化物や電解質を補充することを心配する必要はありません。

 

かえってゲータレードなどのスポーツ飲料水を飲むとインスリンスパイクを引き起こしてしまいます。ほとんどのアスリートにとって、水分補給は水だけで十分なのです。」と彼女は言っています。

 

「実際に製品を使用しているかどうかに関係なく、カッコよくて知名度の高いアスリートを宣伝に使って、カッコいい色と味の広告を作ることで、消費者はその製品が必要であると思い込み、その製品を購入したいと思うようになります。 」とジンさんは言っています。 「本当のメッセージが消費者に伝わってしまっては、販売に良い影響は与えませんからね。」

 

多くの場合、マーケティングは子供を対象としています。 「スポーツドリンクは、子供たちからは涼しげで、パワーをくれる摂取するべき飲み物だと考えられています。多くの場合、それは善よりも害をなす、精製糖の不必要な供給源であるのにも関わらずにです。」と彼女は言っています。 「このような企業は常に、自社製品をアスリートに販売していると主張しています。本当のことを知らない子供や大人は、運動をしている人はみんな飲む必要があると信じ込まされているのです。」

 

バンナータさんは、ゲータレードがここまでの成功を遂げた理由の1つは、その主張が科学に基づいていることを国民に確信させることができたからだと言っています。ゲータレード社のスポーツ科学研究所のウェブサイトには、ゲータレード製品を摂取することで想定される健康上の利点について取り上げられている科学出版物が掲載されています。例えば、2014年のGSSIの出版物「補液飲料の最適な組成」には、補液飲料により生理学的機能が増強されるいう内容が書かれています。しかし、多くの場合、GSSIはアメリカスポーツ医学会 (ACSM) などの一般の人が信頼できると考える組織の研究を後援し、資金を提供しています。 ACSMは、GSSIを公式の企業パートナーとしてリストしています。ジンさんは、GSSIには彼らがウェブサイトに掲げる「アスリートの健康とパフォーマンスを水分補給と栄養学の研究と教育を通じて最適化する」というスローガン以上の目的があると考えています。ジンさんは「製品を売って金儲けがしたい企業が資金を提供する研究は、信頼することはできない。」と言っています。

 

CrossFitトレーナーを仕事とするバンナータさんは、GSSIが有名人を起用して作ったパフォーマンスの向上を主張する広告の影響を受けたクライアントと話す機会がある時は、砂糖の摂取について考えるように勧めていると言っています。 「私は自分を、水を飲むだけで何年も健康問題を持つことなく生活している人の例として頻繁に使います。」また、クライアントが運動中の電解質の損失を恐れている場合、2時間以上継続して運動する場合は、電解質の損失が懸念事項になるとクライアントに説明していると言っています。

 

電解質を補充する必要があると本当に感じる時は、スポーツドリンクよりココナッツウォーターの方が適しています。」とバンナータさんは言っています。彼は次のように付け加えました。「スポーツドリンクを飲むことのマイナス面と、考えられる利益を差し引きすると摂取する価値がないことが分かります。」

 

マリノフさんが1型糖尿病と診断されてから砂糖制限期間が過ぎました。彼は摂取する食べ物や飲み物に現在でも気を配っているので、今の生活はとても良くなったと言っています。

 

彼は、栄養士や内分泌代謝科医から、インスリンと血糖値の関係について学び、今では健康的な食事をすることに焦点を当てて生活しています。マリノフさんは以前のように炭酸飲料水やスポーツドリンクを飲むことはしません。現在の彼の食事に含まれる少量の砂糖は、果物と野菜に含まれるものだけです。「私の1日を通じてのヴァイタリティレベルは、ほとんど同じです。コーラなどの炭酸飲料水を一日中飲んでいた時のように、1日中大きく上下を繰り返すことはなくなりました。まったく違います。」とマリノフさんは言っています。「この変化を遂げる前は、何でも構わず食べていました。1型糖尿病と診断されることがなく、砂糖について学ぶことを余儀なくされていなかったら、コーラとゲータレードをお腹いっぱい飲む習慣を止める機会はなかっただろうね。」と彼は言います。

 

そして、この経験が現在、彼がサンフランシスコで、砂糖を含む飲料水の広告に警告を表記するための新しい法律を支持する理由です。この法律は、今年の夏に成立し、現在コーラやゲータレードなどの飲料水の広告には、次のように表記する必要があります。「警告:砂糖を加えた飲料水の摂取は、肥満、糖尿病、虫歯の原因になります。これはサンフランシスコ市と郡からのメッセージです。」サンフランシスコからわずか50キロのところに住むマリノフさんは、法律がすべての人、特に若いの人に、日々摂取している砂糖についての教育を促すことができたら嬉しいと言っています。

 

著者:エミリー・ビールズ
CrossFitジャーナルへの寄稿者でありCrossFitバンクーバーのコーチをし
ています。2014年には、Reebok CrossFitゲームズにで37位という成績を
納めました。

 

英語原文:

http://library.crossfit.com/free/pdf/CFJ_2015_07_Sugar_Beers6.pdf